永野ビギナーがユリイカの永野護特集を読んでみた

……久しぶりに真面目に記事を書こうかと思う程度には良い感じにアドレナリンが湧いたわけなのです。

カイゼリン様が表紙を飾る。じゅるり。

永野スキーとしての立ち位置

なぜこういう項目をおいたのかというと、上記の本自体が「論者の興味の立ち位置から永野護を論じる」という構造になっているからに他ありません。
つまり、私自身がどういう部分において永野ワールドを愛し、興味を持っているのかを明かさないことには、感想を述べること自体に意味が無くなってしまうからです。

最初の入り口は、「知り合いに、何度も熱烈にFSSを推してくる人がいたから」という身も蓋もないものです。
その薦め方もすごくて、FSS DESIGNSを開いて、かなり具体的な説明を何度も受けました。初見の人に布教するにはかなり賭けてるなーと今になって思うくらいなのですが(笑)、キャラクターデザインのセンスにその段階でしっかり魅了されてしまったので、単行本を全冊買って、既刊分を一気に読んでしまいました。
ちなみにもちろん、あとでDESIGNSも買いましたけども!GTM観た時も設定資料ほしくてパンフ買いましたけども!

まぁ、そういうわけで一番強い興味は

キャラの服装とその設定萌え

です。ファティマスーツにちゃんと様式の変動があって、しかもデザインがぶっとんでて可愛くて、服飾的ウンチクも一緒に設定に織り込まれているとか、もう、たまりません。時々服やアクセサリーを作ってみたりする人間としては、一種のあこがれですらあります。
その次くらいに「人間の女子キャラのたくましさ」がきて、モーターヘッドの意匠が…とくるので、やはり、男性ファンとは目のつけどころがぜんぜん違うだろうなぁと思われます。
ちなみに、好きなキャラクターはアイシャとヤーボ、好きなMHはエンプレスです。……「わかりやすい」と言われてもいいや。うん。

そこでようやく本編の感想に移ります

とはいえ、全部の論について言及するとそれこそ「A4で1枚でまとめて!長い!*1」という世界になってしまうので、上記の興味範囲に関する論と、読んでいて面白かったものについてのみ言及します。

蘆田浩史×小野原誠「肩、袖、腰…ラインが語りだす物語」(対談)

本職のファッションデザイナーの小野氏とファッション研究者の蘆田氏による対談。
ひたすらFSSの服について語り倒すという対談なので、本を開けてまっさきに読み始めました。
「シルエットの力点が『肩』に集中している」「服飾デザインに関するオブセッションは女性キャラに集中している」といった指摘になるほど…と思いつつ読んでいたところ、こんなセンテンスが。

マンガのいいところって、リアルを意識しないから自由に発想できるんです。立体感や素材感を考えなくていいので、あくまでキャラクターとしてデザインができるんですね。(中略)洋服を作る時って、張りを出すところとか柔らかく見せるところとか、素材感というのをすごく緻密に考えるんです。だからマンガにおけるファッションとは全くの別物ですよね。
*2

これは小野氏の発言なのですが、第一線のデザイナーが、こういうことを文字の形で残したのは本当に重要です。
それ以降の対談の流れでは、「リアルを意識しないデザイン=現実を超える契機」という流れになっていくので、この差異自体は肯定的に扱われるのですが、この差異自体が「オタクとファッション」を混ぜようとする時になかなか意識されづらい部分なので、そういう意味でよい対談たったと思います。

樋口ヒロユキ「『ファイブスター物語』の服飾世界――服飾的異教習合とポストヒューマニズム

つまるところ「永野護の服飾デザインってアレキサンダー・マックイーンとかジョン・ガリアーノに匹敵すんじゃね?」という内容なのですが、根本的なリファレンスの弱さが気になりました。
そもそも、ハイファッション関連のデザイナーとそのデザインが頭に入った状態でこの論を読む人がどれほどいるのか…という。図版は許諾の関係で難しいのは重々承知なので、少なくとも参照可能なURLくらいは付しておくのがこの手の本での態度だろうなぁ*3と思ってしまったわけです。

金田淳子×岡田育「『FSS』はこの男に萌えろ!女子たちのためのFSS(再)入門」(対談)

もちろん、おねーさま達の萌えトークもふんだんにあるのですが、そういう部分ではっちゃけつつ、要所要所で女の読み手としての違和感をゴリゴリと痛快にあぶり出す手腕に川崎のスタバで「ブラボー!」と叫びたくなった一品です!(もちろんいい大人なので叫びませんけど!)
このくだりが本当に痛快。

岡田 ファティマが(中略)……男性の「俺の女が俺のママにもなって自分をかわいがってほしい」という潜在的な欲望が表れてる感じはありますよね。
金田 妻にして母にして娼婦、みたいな。欲望を全部盛りすぎる……(笑)。
岡田 昔はただかっこいいとかかわいいとかで読んでましたけど、おぞましいなぁ。でも、永野先生は男のそういう部分を一周回ってメタに見てるから作中に消化できるんですよね。(中略)だからこそファティマのいる世界における人間女性の側の哀しみや葛藤、星団法の設定まで描けているわけで。足首ばっかみてる男性読者諸君はそこまで読めているのかね?と問いたい。*4
金田 エルメラさんとかアイシャとか、ヤーボとかそれぞれ好みはあるだろうけど、人間の女性キャラはみんな魅力的ですよね。
岡田 脚が太くて悪かったな、ってたくましく生きている感じ。ああいう女性心理まで描ける男性作家は滅多にいませんよね。男の理想としてのかわいいファティマが出る一方、女の二面性とか、女同士の大舌戦とか、男からみて「こええー」ってなるであろう描写も入ってて、あそこは女性が共感しやすい描写だと思うんです。
*5

FSSに手を出したのは社会人になってからなので、読み始めた時には、「確かにファティマは可愛いけれど、その抱えている構造は気持ち悪い、気持ち悪すぎるぞ…」と思っていて、そのあたりの違和感も表明してみたりしたこともあったのですが、それでも普通に読めるのは、作中にそういう反省がちゃんとあるというのは大きいなぁと思っています。*6

その他気になった項目を駆け足で!

永野護ロングインタビュー

ここは言わずもがな!なんですが、孤独と戦うということはこういうことか、というのが垣間見えるインタビューで、とても勇気づけられました。自分が信じるもの、本当に求めるものを作るには、孤独を引き受けないといけないのですね。

ちなみに、CGについて「情感の表現については全然追いついていない」という趣旨の、そのものズバリな指摘*7もあって、CGでリアリティを撹乱する*8にはまだまだ時間がかかるのか…と遠い目をしながら。

武井宏之×西島大介×梅沢和木「神はデザインする――永野護をめぐるトラフィクス」

武井先生、永野マニアだったのか…!というのが一番の衝撃。
対談中も全然喋らないのですが(笑)、こんど久しぶりにマンキン読みなおしてみよう…。完全版で。

飯田一史「Schwingungen――ブランドとしての永野護ファイブスター物語』小論

ひたすらがっちりマーケティング分析をするという異質な(だからこそキラリと光る)論。
むしろ、バリバリの実務家はここから入るのが読みやすそうだと思われます。

*1:と、社会人になってからよく言われるようになりました(←

*2:蘆田浩史×小野原誠「肩、袖、腰…ラインが語りだす物語」 『ユリイカ』第44巻第14号(2012)、P.132

*3:本来であれば、FSS本編に言及する場合も、言及している巻とページの指定は必要なので、その点に関しては次の西川氏の論(というより小説)の態度が一番望ましいです

*4:強調引用者!!(笑)私も問いたい。

*5:金田淳子×岡田育「『FSS』はこの男に萌えろ!女子たちのためのFSS(再)入門」 『ユリイカ』第44巻第14号(2012)、P.167

*6:ファティマと人間女性の境界線を撹乱する存在としてはアトロポスがそうなんだろうなぁという与太も飛ばしつつw

*7:ユリイカ』第44巻第14号(2012)、P.16-17

*8:私が卒論で無理やりブチ上げたテーゼ。